7 竹清慶治


 鏡の中の自分と目が合うと迷いが生じる。不安な気持ちになる。一人の時は後悔だってしたりする。生徒会長などに勢い立候補して、落ちたりなどしたらとてもカッコつかないな、なんて事が頭を過ぎるのだから、自分は弱いのだと思う。
 「ここに立ちたいと思ったからこそ、私は生徒会長に立候補したのです」
 それでも、立候補演説のときは言いたい事は言えた。
 その演説を聞く生徒たちの目は竹清に釘付けだった。
 美しいのである。飽きれるほどに美しい。
 キレイな顔立ちをしている。背は高く、細身のシルエット。普段は見つめることさえ畏れ多く、控えるしかない生徒が多数なのに、体育館の壇上に上がって演説などしてくれるから生徒たちは遠慮なく竹清の美しさを確かめることができるのである。
 竹清の美しさはもう入学当初からかなり評判だった。だけど、それを拒否するかのように、竹清は、ただの生徒でいた。揉め事が嫌いだともいえる。中学の時で懲りていたのである。そんなことは面倒くさいだけなのである。だったら、ヤンチャせずに控えめにしてようという竹清なのである。それは、そういうことにだけは敏感な生徒たちは感じ取ることができるから、竹清に近づくことが出来なかったのである。竹清に無視するという行為をさせるのも辛いし、されるのもとても悲しい。彼を見つめることだってひどく不快にさせるだろうから、周りは竹清を、竹清が望む通り、ただの生徒で扱ってきた。そんな竹清が生徒会長をやってくれると言うのである。
 果たして、生徒会長に何を思い巡らせれば良いのか、その存在理由さえ考えないし、その位置付けだってあやふやでしかない生徒たちなのであるが、竹清という生徒がやってくれるというのならそれはまた、別の話になるのであり、たいへん興味ぶかいものになるのである。
 竹清以外に、もう二人生徒会長に立候補した。それも、生徒たちの心情的に大変良い事なのである。信任投票で竹清を○か×でなどで会長にするのではなくて、何人かの中から選びたいのである。それも二人から竹清を選ぶというのでなく、三人から竹清を選べるというのが非常に心地よかった。そういう思惑を叶えさせてくれたのだから、残りの生徒会立候補者の二人にも、生徒たちは暖かかった。感謝していた。だから演説集会の雰囲気は大変良い状況のなかで行われたのである。毎年、それを見てきた教師たちは、その事の理由に気づける者もいるし、まったく理解できない者もいた。
 生徒たちは皆、竹清が生徒会長になるのを知っている。それは、いわば安心感のようなものである。ニュアンス的には安堵感の方が近いかもしれない。だから、冗談で他の立候補者の名前を記入しちゃおうかな、などという遊び心を持たせてくれたりもする。だけど、実際用紙に記入するときになったら、そんなことはさせなくさせてくれるもの竹清慶治なのである。
 投票が行われ、開票は選挙管理委員たちによってその日に行われた。
 竹清は知り合いの管理委員に結果を知らせてくれるよう頼んでおいた。携帯が鳴ったのは駅の改札を出たときだったので、ドキっとさせられた。
「オメデトウ」
 電話にでたら、明るい声でそう言われた。 
 そりゃあ、竹清もそれを聞いたら嬉しくなった。