8、任命式の午後


「でさ、その友達が曲流れたらいきなりフロアで踊りだすからさ、床クルクルとか回ってさ、もうオレ壁に張り付く感じで避けてたからね」
「アハハ、ホントに?」
「うんうん、こうピターってね」
「おもしろーい。そうなんだぁ」
 ホントはきっと堀洋介はそんなに雄弁ではないはずある。洋介自身がそんな自分におどろいているかもしれない。会話に合わせて笑みを浮かべている里崎綾も立川亜季も武藤繭果もまだ手探り状態である。みんなまだよくポジションが分からないのである。洋介は竹清会長や一年生の河本の立場を考え、この場合自分がムードメーカー的を担うべきだと判断を下し、色々面白話の引出しを開けて、喋ってみているのである。笑ってくれる女のコたちには自分の努力が伝わったようで内心ホッとしたりしている。
 竹清もそんな役を引き受けてくれた洋介に感謝をしている。御かげでとってもいい雰囲気でこの会が成り立っている。となりでみゆきもほがらかに笑ってくれているから、生徒会は良いスタートが切れるんじゃないかと思う。気にかかることを無理に上げてみれば、いまはまだ無色の白紙の状態である河本である。緊張しているのか伏し目がちに座っているだけである。
 今日、二学期の終業式が行われた。その前に時間を取って新生徒会の任命式が行われたのである。それが形どおりに終わったあと、舞台袖で竹清は河本に話し掛けた。
「今日の午後役員のメンバーで集まろうと思うんだ。親睦を兼ねてお茶でも飲もう。時間大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「それは良かった。じゃあ放課後生徒会室の前に」
「はい」
 竹清は案外素直な河本に安心した。とそれに伴い別な思いが浮かんだのである。河本が副会長に立候補しての演説、また副会長に就任が決まっての今日の短い挨拶やその他の振る舞いを見ても思い出さなかったのであるが、いま、正面から言葉を交わしてその目を見たときにいつか、どこかで一度合っているような気がした。終業式、最中の校長先生の話の間にも、竹清はいつの事だったのかと思い出そう記憶を探っていたとしていた。
 あ、と思う。そうか。学食で一度私をみて立っていた一年生。あれは河本だった。で?それが分かって、どうしたというのだろう。それは蓋をせず心の隅に開けたままにしておいた。
 放課後、生徒会のメンバーがみんな揃うと駅前の少し外れた所にある洋菓子店に移動した。店内はクリスマスの前々日という事でそんなムードは全開であったが、平日の昼間で予め予約をしておいたこともあってか、二階は空いていた。みんなコーヒーや紅茶にケーキなどを食している。ここは竹清が奢ると決めている。バイト代だって出たんだしこれくらい会長として奮発しなくてはと思っているからなのである。そんな竹清の心意気を汲んでか他の役員もぜひ生徒会を成功させようという気になっている。そのための洋介であり、女のコたちなのである。
「河本君はどんな生徒会にしたい?」
 竹清が、会話の切れ目に聞いてみた。みんなの目が河本に集まる。河本は顔を上げて竹清を見た。さっきの任命式のあとに見せたの河本の目だと竹清は思った。
「いい生徒会にしたいと思います」
 率直な印象で答えた河本の、それに、
「うん。いい生徒会にしよう」
 と、竹清は返した。それに倣い、みんなも頷いた。