10 洋介の事情 洋介の彼女いない歴は二ヶ月になる。それは、つまり生徒会会計に就任する前に別れたのである。 別れてしまった彼女とは、友達の紹介で夏を前にした時期に知り合い、付き合いだすようになったのであるが、最初のころはとても上手くいっていた。 彼女は他校の生徒だから、ゆっくり逢えるのは休みの日に限られたが、その分、一緒にいる時間はとても楽しかった。学校や家で一人でいる時も彼女のことが頭の中を支配していたりいた。それが嬉しかった。 しかし、いつの間にか上手くいかなくなった。 「どうしたの?」 「ううん。別に」 こんなやり取りが多くなる。 彼女は不機嫌な時は黙っているというやり方をとるのであった。理由を聞くまで黙っている。聞いても黙ってたりする。携帯でも、それをやられると電波の関係で切れたのかと思うこともあるので勘弁してほしくなった。 結果、別れることとなった。 洋介の頭の中に「恋愛をするにはまだぼくらは幼すぎる」などという、どこかで見聞きした一文が頭に浮かんできた。付き合っている間、ほんとに彼女の事が好きだったのか考えたりした。分からない。彼女だってオレを好きであったのか分からない。 お互いがただの「好奇心」で付き合っていたように思える。そして、双方のそれは種類がちがうのだ。それに彼女は気づいた時に不機嫌になり出し、洋介も気づいていない振りを続けることは難しくなった。 だから、別れた。と洋介は結論した。 そんな時に生徒会のことを学校で知った。 平井先生の生徒会についての放送を聞いたときには、彼女との別れたばかりと、あまりにタイミングが良かったので、もう絶対生徒会に入るしかないなと思ったのである。 そうすることは、いつかどこかでその彼女とばったり逢ったときになどに、笑って話せることになると思いついたりもした。 そんな経緯で、堀洋介は会計に就任したのである。 一月も中旬。そろそろ放課後生徒会室へ行くという事も洋介にとって習慣付けられた頃である。さて今日もという気分で生徒会室のドアを開けたら、驚かされた。 「洋介には白の胴着を着てもらおう」 竹清がそういって空手着を渡された。そしてそのまま竹清と河本と三人でリハーサルをすることになる。 リハを行う場所である空いている教室に移動する間に河本から事情を聞いたりしたら、三年生を送る会での出し物であると分かった。 「洋介は主役だ」 前を歩く竹清が振り向いてそういった。 白の胴着を着ての主役。 よっぽどでない限り断る気はないのだから、せめて覚悟を決める時間くらいは与えてほしかった。しかし、隣で赤の空手着をもって歩いている河本よりは白は無難だし、主役というのなら張り切っても見るかとも洋介は思った。 |