11 女子役員たち


「コレ切ったら聞きたくない音しそう」
 そう言ったのは、書記の肩書きの里崎綾である。
「うんうん。絶対するよね」
 そう返すのは同じ書記の立川亜季である。
 二人は、発泡スチロールを球体に仕上げなければならない。カッターを持って逡巡して
いる。
 みゆきと書記の繭子は画用紙に模様を入れたりしている。
 女役員たちは、男役員たちが行う出し物で使う小物の作成をしているのである。
「会長って悪役なんでしょう?」
「うん。悪者だから出せる魅力に迫りたいとか言ってた」
「会長って、そういう所あるんだ」
「どこまで本気で言ってるのか分からないンけど…」
 繭子の問いに答えるみゆきは、赤の画用紙に黄色の線を入れるのに夢中である。
 こういう作業はやってみたら以外に集中を促したりするのである。
「あ…」
 綾が思い切り発泡スチロールを切ったら、不快さはさほど感じなかった。それでも気持
ちが良いとは言えなかった。
 亜季も綾に倣ってカッターを入れる。
「意外と簡単に切れたりする」
 綾も亜季もうまくできそうだった。
 この作業に取り掛かる前に、竹清は「もし、出ようと思うんだったら役はあるよ」と持
ち掛けた。しかし、衣装がチャイニーズドレス、ミニスカセーラー服、ハイレグレオター
ドと聞いて、当然誰も手を挙げるには至らなかった。
 そんなやり取りを、女子役員たちは作業をしながら思い出したりした。
「勇気がいるよね。皆の前でそういうの普通に着るの」
「うん。だよね。それ着てキックとかするって…」
「あ、でも何気に洋介君張り切ってるのがイイ感じだよね」
「あ、やっぱ繭子も感じた?」
「うんうん。空手着が似合ってたよね」
 その後、沈黙。それぞれに河本秀人が巡ったのである。
 唯一の一年生役員である。同じ生徒会だから顔を合わせはするが、いまいち、まだどん
な人物なのか掴めないでいた。会議の時など、無表情で無口に座ってるだけかと思えば、
竹清が話し掛ければ、笑顔で答えたりはする。今度の出し物でも赤の空手着を躊躇なく纏
ったりするのも一種謎である。そつなくやってはいる印象の河本を女子役員たちが話題に
上げることはまだ無く、それぞれが誰かが触れるのを待っている状態とも言えた。
「河本君ってさ…不思議系?」
 そう口を開いたのは、亜季である。
「かもしれないよね」
 繭子もすぐそれに乗った。
「プラスの不思議系だよね」
 綾も加わった。
「そそ、いい意味での不思議系」
 亜季は、反応が良かったので正解だったと安心した。
「あれ、ここにガムテープ切ったの貼っといたんだけど…」
 みゆきだけ、いまだ作業に集中していた。そんなみゆきに他の三人は顔を合わせて笑い
あった。

 演劇の練習をしている竹清たちの元に、みゆきが代表をしてできたばかりの小物を届け
た。
「どう、いいでしょう?」
「うーん。まぁこれでもいいけど、もっと波動な感じにできなかった?」
 竹清は自分に妥協しない人だった。
「…頑張ってみんなで作ったんだからぁ」
「うんうん。よくできてるよ。ここら辺とか波動って感じでてるじゃん」
 洋介がフォローした。
 そんな優しい洋介にお礼を言い、みゆきは帰っていった。

 一人電車に乗るみゆきの携帯にメールが入った。それは竹清からのメールであり、「実際
に使ってみたら、思ったより実用的だった。気に入った。アリガトウ」という内容だった。
「まったくさ」と呟いたみゆきに「あのー」と、ランドセルを背負った男の子が話し掛け
てきた。みゆきは、瞬間的に「まさかこの携帯が注意されるの?」と感じた。
「背中にガムテープ付いてますよ」
「エ?…エ?」
 慌ててみゆきが自分のコートの背中を見ようしたので、少年はガムテープを剥がしてく
れた。
「アリガトウ」
 みゆきはそのガムテープを受け取ると手のひらでぎゅっと丸めた。